百人百様 日本の住まいに彩りを! 村田マリ インタビュー

2016.06.17

百人百様 日本の住まいに彩りを!  村田マリ インタビュー 百人百様 日本の住まいに彩りを!  村田マリ インタビュー

よりよい住まいを創り出す人たちへのインタビュー

MATERIAL INTERVIEW #01 MARI MURATA

百人百様 日本の住まいに彩りを!  村田マリ インタビュー

「MATERIAL」の巻頭インタビューでは、毎号、
インテリアをとりまく、さまざまな分野で活躍する方々が登場!
記念すべき第1回目は、住まいやインテリアに特化した
キュレーションメディア『iemo(イエモ)』の創業者、村田マリさん。
乏しいと言われ続けてきたインテリアメディアの世界に旋風を起こしたこのスマートフォンメディアは、
どのように誕生し、どこへ向かい成長していくのか、
その展望をうかがいます。

 

インタビュアー:坂田夏水(夏水組)、田中元子(mosaki)

iemoは主婦の視点から

— iemo(イエモ)は、どのような経緯で立ち上げることになったのですか。
村田:最初に起業した会社が買収されたとき、ちょうど子どもができた頃だったので、一度専業主婦になりました。子どもが2歳になるまでは、まさに子育てだけの生活。ライフステージがキャリアウーマンからママになり、子どもが成長していくなかで、家にまつわるものの見方が変わっていきました。

たとえば、子育てがしやすい環境を求めて住み替えの必要に迫られます。すると間取りや家具の選び方の基準も変化するため、一気に自分の中の価値観が転換してきました。

ところが、一日中子育てをしながらだと、片手間にパソコンの前で情報を探すというのが至難の業でした。あるとき、これが携帯でできればなぁと思ったのですが、日本には住まいや暮らしにフォーカスしたスマートフォンメディアがありませんでした。それで2年前の専業主婦だったときに、iemoを創業しました。

 

— スマートフォンに対応していない分野は、他にもあると思いますが、その中でも住まいにフォーカスされたのですね。

村田:服は、ガラケーの時代から携帯で買うことができました。食もレストランの予約やレビューがスマホで簡単にできてしまう。ところが、家やインテリアに関するものは、スマホで買うこともレビューをすることもできません。衣食住の中でも、住まいの領域のスマホ化が最も遅れていました。

これまでの不動産やインテリア業界は、たいがい男性の目線でつくられていたように感じます。実際は、家や暮らしにおいて男性よりも主婦のほうが決裁権をもっている時代になっています。ある建築家の方に話を聞くと、はじめの問い合わせは男性からでも、予算が決まると奥さんが主導権が移り、後半は奥さんからどんどん写真が送られてくるのだそうです。

iemoがそういったことをサポートできるプラットフォームにもなれたらすごくいいなと考えたわけです。

 

— iemoのコンテンツには、建築やインテリアの専門メディアが取り上げてこなかったような、たとえば100円ショップのものを利用したDIYなども多く紹介されていて、独特のカラーがあります。それにはそういう理由があったわけですね。

 お子さんが生まれる前のマリさんの暮らしから得られていたことも、何か影響しているのでしょうか。

村田:もともと私は、海外の家に住んでみるという体験が好きでした。今のようにairbnbがない時代に、パリに行ってアパルトマンを借りて2週間くらい生活するということを、毎年冬にやっていました。そこでは、街や建築が何百年規模で維持されていて、それらを上手に残しながらリノベーションをして更新していくという欧米ならではの家に対する価値観に触れました。また時には、東南アジアで高級コンドミニアムに泊まってみたりしたこともあります。とにかくいろいろな国に住んでみるという体験をしました。そこには、それぞれの国ごとに居心地の良さと豊かなコミュニティの形がありました。

ところが、日本に戻ってみると多くの人が画一的な住まいの型におさまっています。たとえば、マンションで隣に行くと間取りも、柱割りも、色も全部同じ。さらに同じような家具を選ぶのだから、全部が同じ家のようになっていて、とてもおかしく見えていました。

世界には、100世帯あれば百様の色の住まいがある。iemoの立ち上げにあたっては、海外のインテリアや家のスタイルのバリエーションを可能な限りたくさん紹介するようにこだわりました。

 

— 村田さんの既出のインタビューは、どうしても事業に関する話が中心の印象ですが、こうしてiemoに個人的な想いも込められていることにしびれました。

村田:どうしてもそちらにフォーカスがあたりがちですが、私は、とにかくウェブサービスによってたくさんの人に使ってもらうことが好きなんです。それにどんな会社も創業者の熱量がないとユーザーに伝わりません。だから、私は愛のないサービスはつくらないと決めているんです。そうでなければ強みを活かせませんからね。

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多くの人に色鮮やかな暮らしを

— iemoがはじまって2年が経ちましたが、 ユーザーがどのようになっていくことを、目指されているのでしょうか。

村田:iemoを使うことで、新しい家のスタイルに出会って、たとえば家族のコミュニケーションが増えましたとか、休日を家で過ごすことが楽しみになりましたとか、そういうことを私たちは、3〜5年以内に叶えたいと思ってつくってきました。今はその変化を感じはじめているところです。

より多くの人たちが変わっていくためには、もっと間口を広げていくことが必要です。そのために既存不動産がターゲットとしていた既に顕在化されているユーザーではなく、30代の主婦などの潜在化しているユーザーに関心を持ってもらわなくてはいけません。

より多くの潜在的な人たちに見てもらえるように、100均ショップやDIY、生活や暮らし、家、とにかく日常でなんとなく興味がありそうなあらゆる情報を発信しています。そのひとつひとつがトリガーになっていって、そのプロセスのなかで、iemoを覚えてもらうきっかけになればいい。

iemoには一般の方とは別に、工務店や建築家、メーカーなどの「プロアカウント」が1500社近くあります。そういう方々には、リノベーションのビフォアアフター的な記事をシリーズとして書いていただいています。ここで百社百様を見せていただければ、それらがすべてユーザーにとってのきっかけになります。プロアカウントの方々にとっては、有名雑誌に載らなくても、iemoを通じて今までに出会えなかった新たな施主とも出会えることができます。

 

— ジャガイモの皮のむき方ひとつから、インテリアや建物の話までが地続きに発信されていること、iemoを通せば、自分の素敵な暮らしがみんなのものになることがすばらしいですね。それらは全てマリさんの想いがあってこそのものだったわけですね。

村田:私の大好きなインターネットが解決するのは、何と言っても情報の壁です。iemoをはじめて2年が経って、ユーザーの皆さんが実際に自宅に手を入れはじめていることが、ようやく顕在化してきました。iemoの中には、ユーザーが投稿できる「いえれぽ」というコーナーがあるのですが、そのなかにはプロみたいな人が多いんです。そういう人の存在を知ることができただけでも、やってきた意義がありました。インテリアオタクは、決して特殊な趣味ではないんです。

インターネットの投稿によって伝搬されれば、また別の人が影響されてやっていく。インターネットが得意なこのフローで、多くの暮らしが色鮮やかになっていくのがとてもいいなと。

 

— マリさんは、今はシンガポールにお住まいだそうですが、どんなインテリアなのですか?

村田:最近は、サーフ系のインテリアにはまっています。昔は木製のものや緑が好きだったのですが、旦那さんがサーフィン好きということも影響してそこに落ち着きました。

私自身もアウトドアが大好きで、この前もツリーハウスに泊まりにいったり、シンガポールは季節がないので、あえて雪を楽しみにいったりもしています。手作りすることも、iemoがきっかけで好きになったんですよ。iemoのキュレーターさんたちが寄稿してくれたものに、子どもと一緒におもちゃをつくるように楽しく手作りして、それを最後にインテリアとして飾れる、という記事があって、それにはまりました。まさに私自身がiemo女子になっています(笑)。

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ネットとリアルをつなげる未来

— 創業から2年が経ち、多くの人に認知されてきました。次のフェイズとしては、どんなことをお考えでしょうか。

村田:iemoって何だろうと模索してきて、まだ2年ですが、今や月間800万ユーザーまで成長することができました。これまでのインテリア雑誌が月刊5万部などですから、毎日ファッション雑誌を出しているくらいの数です。

今は潜在層向けのコンテンツが多いのですが、次は顕在化しはじめている、既に関心を持っている人たち向けのコンテンツを増やしていきたいですね。

たとえば、こういう家を購入したい人は、こちらに連絡をしてくださいとか、説明会はこちらですよとか、リアルなメーカーや店舗さんと一緒になって、来店へつなげたり、そういう方向が理想です。つまりオンラインとオフラインをつなげて、人がリアルに動くステップをいくつも作っていきたいんです。関心のある人に情報を渡し、その人がどこかへ行ったり、購入したりするところに送客できたら、本当に面白いですよね。

 

— その上で、さらにiemoのなかで見せ合ったりしていくわけですから、コミュニケーションも相乗的に高まっていきそうですね。

村田:特に主婦は、外とのコミュニケーションが取りづらいことが多いので、生活の中で頑張ったことを褒められることは嬉しいんですよね。そういうコミュニケーションツールのインフラとしても、もっと使って欲しいです。

iemoのなかのちょっとしたコミュニケーションのやり取りや投稿で褒められているうちに、だんだん範囲が広がっていて、最終的に家を住み替えたり、購入したりすると思うんです。そのステップをiemoの中で、大きくしていっていただけたら嬉しいです。

 

— iemoによってまだまだ、この先も変わっていきそうですね。

村田:インターネットを使うことで、閉ざされたものがひらかれ、多様化していくと、それまで一部のひとにしか実現できなかったことが、他のひとにもできるようになります。

たとえばiemoでDIYなどの知識を得たユーザーが、自分でもできるようになり、やがて周りの人のためにも役立てて謝礼をもらう未来が来るかもしれません。そして、これまで家をつくる、購入するという過程に生じていた担い手というのがもう少し細かく砕けて、分散していくと思っています。つまり個人個人の暮らし方に合わせた家づくりを実現にするにあたり、行程や担当が細分化し、また業者や専門家とユーザーの棲み分けや役割も変わっていくのではないかと。

 

— 海外のように多くの人たちが、ある程度の工事や取り付けをできるようになれば、インテリアデザイナーも建築家も、いらなくなってしまうのでしょうか。

村田:そういう世の中が来るかもしれないけど、そうは言っても、専門家の人にまかせたほうがいいということは、在り続けると思います。場合によっては中途半端なポジションにいる人は、職がなくなるかもしれませんね。きちんとクオリティの高い仕事を、スピード感を持ってしてくれるひとは生き続けるでしょうし、そういう専門家につなげ続けていくこともiemoとしては、大きな役割だと考えています。

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