“住みごこち”は自分でつくる ー竹内昌義 インタビュー

2017.12.22

“住みごこち”は自分でつくる ー竹内昌義 インタビュー “住みごこち”は自分でつくる ー竹内昌義 インタビュー

よりよい住まいを創り出す人たちへのインタビュー

MATERIAL INTERVIEW #06 MASAYOSHI TAKEUCHI

“住みごこち”は自分でつくる ー竹内昌義 インタビュー

1962年生まれ。1995年に一級建築士事務所「みかんぐみ」を共同設立。2000年より東北芸術工科大学・環境デザイン工学部助教授を務め、2008年より同教授就任。
〈山形エコハウス〉の設計に関わり、環境やエネルギーの調和を目指しエコハウスの普及、啓発に努める。
代表作に、〈愛・地球博トヨタグループ館〉、〈SHIBUYA AX 〉、〈伊那東小学校〉などがある
『図解 エコハウス』(エクスナレッジ) 、『原発と建築家』(学芸出版社)など著書・共著書多数。

空間づくりに関するさまざまな分野で活躍する方々にお話をうかがう「MATERIAL」インタビュー。
6回目となる今号では、「MATERIAL」主宰の坂田夏水が”スーパーアーキテクト”として尊敬する建築家・竹内昌義さんをお招きしました。
暑い夏に寒〜い話をしていますが、あしからず…。

“住みごこち”は自分でつくる

竹内さんは、エネルギー問題を建築から解決していこうとする試みを実践している建築家だ。ざっくりいうと「暖房費がかからない」、つまり「寒くない家をつくる」ということをしている。 ただし、つくるといっても新築住宅ばかりではない。断熱リノベーションの DIYワークショップなどを開催して、 たとえば古民家をあたたかく住み心地のいい家につくり替えていたりする。

2016年には、千葉県南房総市で幼稚園の拠点として使われている古民家をDIYでリノベーションするワークショップを開催。1月という寒い時季にもかかわらず多くの参加者が集まり、自らの手で住まいをあたたかく快適に変えることへの手ごたえが伝播していった。同様の試みは 2017 年にも行われ、古い家に手を入れながら住み続ける楽しさが、徐々に広まっていっているように思える。

そんな竹内さんに本誌が聞きたいのは、これからますます広まっていくであろう断熱 DIY のことや、竹内さん自身が今後注目したい素材について。冬の準備を今からするのも悪くない!?(聞き手・坂田夏水)

“住みごこち”は自分でつくる ー竹内昌義 インタビュー

エネルギーを使わない

―そもそも竹内さんがエコ建築にこだわり始めたのはなぜですか?

竹内 :リデュース・リユース・リサイクルの3 つをテーマ にした、「愛・地球博(2005 年)」でトヨタパビリオン(トヨ タグループ館)を設計してからなんですよ。リユース、つまり同じものをもう一度使うことを前提に、鉄骨に穴を開けないで使えるジョイントを考えたり、壁面はダンボールにしたり、トヨタパビリオンの部材をそのとき設計していた小学校で再利用できないかと考えたり……。結局、その小 学校では「新築に中古の部材を使う」ということを市長さ んに反対されてしまい、企画がつぶれてしまったのですが。

 

―あえて中古の部材を使うということが理解できない人も多いかもしれません。 

竹内 :意識の問題って大きいですよね。で、次に僕がエコと言い出すきっかけとなったのは、(東北芸術工科)大学で エネルギーのかからない家、エコハウスをつくるという話 があったとき。北欧に、地元の木を使ったエコハウスがた くさんあるというので見に行ったりしたんですけど、外気は極寒、でも家の中はしっかり断熱して快適に過ごしていることに驚かされました。これを日本でもやりたい、とい うことで、大学のある地元・山形の木を使って、2010 年 3 月に〈山形エコハウス〉が完成。 その翌年に東日本大震災が起きたんですよね。2 日間も 停電して、携帯電話も充電できずに毛布にくるまって寝るしかない状態でしたが、室温は 18 度以下にはならなかっ た。みんなでお茶を飲んだりして、ゆったりしていたのが とても印象に残っています。

 

―エコハウスは災害に強い!

竹内 :そうなんです。原発問題でエネルギーの脆弱さを感じたからこそ、エコハウスを広めたいなと思って。それがここ最近の活動のもとになっています。

DIYは仲間とやることが鉄則

“住みごこち”は自分でつくる ー竹内昌義 インタビュー

― とはいえ、エネルギーのかからない家をイチから建て るのにはお金がかかりますけど……。

竹内 :確かに、うちの学生も「エコハウスはお金持ちの世 界の話でしょ」って言ってました(笑)。でも、中古住宅の 断熱リノベーションなら自分たちでできますから。畳を上 げてシートを貼って、また戻して……というきわめて地味な作業ですが、みんなでやれば楽しい!

 

― 竹内さんが南房総の古民家で開催した、断熱リノベのワークショップのことですね。 

竹内 :面白いのが、去年のワークショップに来てくれた人たちが自然と自己組織化して、みんなで毎週楽しそうにお 互いの家の断熱DIYをやったりしてるんです。今年のワークショップではその人たちが教える立場になっていたりして。だから僕、今年はやることなくて、庭のみかんをもい でたんですよね(笑)。

 

―(笑) みんなで楽しんで、すばらしいです。

竹内 :DIY はみんなでやることが重要だと思うんです。ひとりだとしんどかったり面倒くさかったりすることでも、 仲間となら楽しんでできます。あと、DIY を楽しむコツと しては、1 回やったらおしまい、じゃなくて、どんどんやっ ていける余地があったほうがいいなと。だから、いっぺんに全部やらないこと。いっぺんにやろうとすると、大変すぎて、絶対に折れます(笑)。「またあとで直そう」くらいの つもりでやるのがちょうどいいでしょうね。

 

―見える部分のDIYって今注目されていますが、見えない部分、畳の下や屋根の上などの DIY も実は盛り上がっているんですね。それはやっぱり住まいに対しての意識が高まっているからなんでしょうか ? 

竹内 :住まいに対しての意識は、相当変わってきていると 思いますよ。でも、古い住宅の断熱の重要性は、なかなか 日本人の間に浸透しきれていませんね。日本人は、夏を涼 しく過ごすための住宅をつくってきました。吉田兼好の「住まいは夏を旨(よし)とすべし」という呪縛にとらわれすぎていて、冬は寒くても仕方がないとあきらめてしまっています。

 

―夏に風が通る涼しい家は、冬を過ごすには寒すぎる?

竹内: 窓を開けたら風が通るというのはいいんですよ。だけど、窓を閉めているのに風が通るのは間違いです。つまり「風通しのいい家」は必要なんだけど、「隙間風が吹く家」 はダメ。ヨーロッパなどでは壁に 20cm、屋根に 30cm の断 熱がありますが、日本の古民家だと 10cm なんてところもあります。 あと、断熱をするときに通気をとらなくてもいいと思っている人も多いですね。通気層と気密層をセットにして壁をつくるのが正しいやり方なんだけど、どちらかだけだと思っている人が多いのかな、と。

断熱材に直接漆喰を塗って壁に?

―海外と比べて住宅に対しての重要度、住まい方、思いが違うんじゃないかと思います。 

竹内 :基本的に家って生活を守るもの、家族の健康を守るものなんです。海外ではそれが徹底されていて、 室内の気温を 20 度くらいにキープすることを前提に考えている。 それに、日本ではエネルギーを節約しましょうとなると、 夏はエアコンの温度を高く、冬は低くするじゃないですか。 この間ドイツで言われたんですけど、「今年の夏は 28 度で 節約できたとしても、もっとエネルギーを節約したいとき はどうするの ? 30 度、32 度と温度を上げていくの? そ れよりも、そもそも家がエネルギーを使わないようにするにはどうしたらいいかを考えるほうが正しくない?」って。 確かにそうですよねぇ。

 

―今、内装の業界のレベルは海外に近づいていると思う んですけど、家の外側、アーキテクトの部分も近づいて行っているんでしょうか。 

竹内: 近づけたいなとは思います。

 

― 一般市場ではどれくらい近づいているんですか? ドイツが 100 だとしたら。

竹内: 3 とか 4 とかじゃないでしょうか(笑)。

 

―うわー !! 

竹内: (笑)だからブルーオーシャンなんですよ。断熱 DIY ってすごくビッグな市場になりえると思います。たとえば断熱材のスタイロフォーム(発泡ポリスチレン板)や段ボールの上に漆喰などを塗れる、左官仕事ができるように なったらまた違ってくると思うんです。壁に断熱材を貼ったりするだけじゃ地味すぎて楽しくないけど(笑)、その上にコテで漆喰を塗って直接仕上げたりするのは、テクスチャを自分でつくっている感じがあって楽しいでしょ ?

 

― 確かに、リノベーションで意匠をほどこすみたいに、目に見える何か、感じられる何かがあれば楽しいと思います。

竹内: だから、スタイロフォームや段ボールの上に漆喰などを塗れるようにするための下地とかをつくってみたいと思っているんです。左官って意外にディテールを気にしないでいいので、失敗が少ないのもいいですよね。

 

― 段ボールだったら気軽だし、どこでも手に入りそうですね。 

竹内 :そうそう、段ボールでドームをつくってみたかったんですよ。大きい民家の壁一面、屋根一面に断熱材をぺたぺた貼るのは大変なので、家の中に設置できる断熱ハウスをつくってみたいと思っていまして。今回は、段ボールを使って「ハウスインハウス」のドームをつくりましょう! そのためにはジョイントが大事ですよね。

 

― パイプでつなぎましょうか? それともビス? ナット?

竹内 :ですかね……うーん、何枚か厚みのある段ボールを入れたときにこの順番を変えて、これを 6 枚……6 枚入るよね ? この 6 枚のやつの 1 枚だけが出てて、そこで 6 枚を留める。いや、こっちのほうが簡単かな……。

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―読者の方にはわけがわからないかもしれませんが、竹内さん、熟考中です(笑)。ちなみに、ドームの大きさはどうしますか? 普通のおうちに入るサイズ? 

竹内 :さっき「ハウスインハウス」って言ったけど、どこまででかいのがつくれるのかも見てみたいな。僕ね、純粋にドームをつくりたいって思っていた時期があって、1cm角のアルミパイプ、長さが 2m のアルミパイプにビニールホースを靴下みたいにはかせてジョイントをつくって……というのをやったことがあるんです。今回もできるだけ 2m くらいのやつでつくってみたい。ワークショップとしても面白いと思いますよ。

家は自分用にカスタマイズされるべき

―話は戻って、日本の住宅事情について。日本の住宅の着工数はどんどん減っていますし、リユース、リノベーショ ンの方向に行っているので、建築家の方々の方向性も変 わってくると思いますが、いかがでしょう?
竹内: 新築住宅なら、普通より高くても、何代にもわたって快適に住めるものをつくるべきだと思いますね。何代もまたいで次の人に渡せる家を、ちゃんと使っていく。 あとは中古住宅。僕は、中古市場が動かないのは、寒いからだと思っているんですよ。さっきから断熱の話ばかりでごめんなさい(笑)。でも、やっぱり断熱が必要だと思うんです。

 

―なるほど、住み続けられる温かさが必要なんだ。これからの日本の建築業界は、断熱とリノベーションで明るくなるということですね!
竹内 :そうです。新たに 100 万戸つくるという話がありま すけど、今、日本に断熱されてない住宅は 3000 万戸以上あ りますからね。そっちをどうにかしたほうがいい。

 

―airbnb などで海外の人が日本の住宅に泊まる機会が増えてるじゃないですか。エアコンを最大にしても寒いから「エアコン壊れてる !」っていうクレームがけっこうあ るらしいですよ(笑)。そのへんの根本的な感覚、「家が寒いはずがない」という感覚が違いますよね。
竹内 :いま、日本人は我慢しすぎなんですよね。もっと自分用に家がカスタマイズされなければいけないし、それが当たり前だと思わなくては。

 

―家って自分を囲う外側の皮膚みたいなところですから、自分が、そして家族が幸せになるということをベースとした住まい方が主流になってほしいです。もうひとつ海外との違いをお聞きしたいのですが、家を大切にする気持ちや、家での過ごし方の違いってありますか?
竹内 :たとえば、人を招くという視点ではけっこう違うと思います。家に人を招いて家を見せることがある種の自慢 だったりするので、その家が快適じゃないというのは困る わけです。家を飾るのも、人に来てもらうためだったりしますよね。

 

―前号で、人を招くために壁紙を一定周期で貼り替えて いるパリのおばあちゃんの話を聞きました(本誌 Vol.5 参 照)。日本もそこに向かっていくんでしょうね。
竹内: たぶん、ね。僕も、人を招いて、スタイロフォーム にコテで仕上げた漆喰壁を見せて「あったかいでしょ」って自慢したいですね(笑)。

“住みごこち”は自分でつくる ー竹内昌義 インタビュー

竹内さんへのインタビューも掲載されている「MATERIAL vol.06」はDecor Tokyo店頭にて配布中です。是非お手にとってご覧ください。

インタビューの中で話している段ボールドームの完成形も載ってますよ…!

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